湿潤療法は、うるおい療法ともいわれ、体が本来持っている力「自己治癒能力」を最大限に生かす治療法です。元々、人を含めた動物には、けがや病気をしたときには自ら治そうとする力「自己治癒能力」が働きます。したがって、小さな擦り傷や切り傷ならなめておけば治ります。野生の動物は、ケガをしたら傷をなめて治します。
傷を直すためには、何よりも「傷を乾かさない」ことが大切です。生きている細胞は乾燥すると死にます。傷が乾燥すると、一見治ったように見えてしまいますが、実際に傷を乾かすことは、傷の治りを遅らせることになるのです。
【傷が治る仕組み】
1.皮膚が損傷すると傷口に血小板が集まり血液を固めて止血をする。
2.好中球やマクロファージが集まり、傷ついて死んだ細胞や細菌を貪食し、除去する。
3.繊維芽細胞が集まり傷口をくっつける。
4.表皮細胞が集まり傷口を覆ってふさぐ。
このように、傷が治るためにはさまざまな細胞が傷口に集まってきては働かなければなりません。この傷を治すために必要な細胞を傷口に呼び寄せる役割を果たすのが「細胞成長因子」です。止血をする血小板は繊維芽細胞や好中球を呼び寄せる細胞成長因子を分泌し、マクロファージは繊維芽細胞を増殖させる細胞成長因子を分泌します。傷口では、傷を治すために最善のタイミングでさまざまな細胞成長因子が分泌され、そこに呼び寄せられた細胞たちが働いているのです。
けがをすると傷口がジクジクしてきて、傷口に当てたガーゼなどにしみてくることがあります。傷がジクジクしてくると「傷が化膿した」と思いがちですが、実は、このジクジクした浸出液に、傷を治すために必要な細胞成長因子が豊富に含まれているのです。つまり、ジクジクと浸出液が出てくるということは、体が傷を治すために一生懸命働いているということです。
傷を早く治すためには、傷口に集まった細胞たちが、最善の環境で活発に活動できるようにすることです。湿潤療法では消毒もガーゼも使いません。そのため、消毒がしみる痛みやガーゼをはがす時の痛みがありません。それに加え、傷口を乾燥させないことで、細胞成長因子に覆われた傷口では、活発な細胞分裂が行われるため傷が早く治ります。
【消毒はなぜ傷に有害か】
傷口の細菌を殺すために消毒をすると、細菌よりも人の正常な細胞のほうが大きなダメージを受けてしまいます。細菌は細胞壁によって守られていますが、人間の細胞には細胞壁がないので、消毒によって破壊されるのは人間の細胞のほうです。細胞が破壊されるということは、消毒をすればするほど、傷を治すのではなく逆に傷を深くしてしまうということです。傷口はよく泡立でた石鹸と水道水でしっかり洗えば十分です。
【ガーゼはなぜ傷に有害か】
傷口にガーゼを当てると、せっかく出てきた傷を治すための浸出液がガーゼに吸い取られ蒸発してしまいます。その結果、傷口が乾燥し、細胞が死んでかさぶたとなります。死んでしまった細胞からは新しい細胞は生まれません。かさぶたができると傷が治ったように見えますが、かさぶたは傷が治らない時にできるものです。かさぶたは表皮細胞が傷口を覆うのを邪魔するだけでなく、細菌の繁殖場所となり、傷を化膿させる原因になります。
また、ガーゼは傷口にくっついてしまうため、ガーゼをはがす時に、新しくでき始めた表皮細胞も一緒にはがれてしまいます。つまり、ガーゼを取り換えるたびに、傷の治療を邪魔しているのです。
傷ははがす時に傷につかないくらいたっぷり軟膏を塗ったガーゼか創傷被覆材で覆って湿潤環境を保つことが大切です。
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